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Shige's Photo Diaryに登場する曲を中心に音楽についての四方山話を綴ります


by shigepianoman2

Pianism

Pianism

Michel Petrucciani / Blue Note Records



2006年8月6日に本ブログを開設していらい早や2年と10ヶ月、途中記事の間隔が大きくあいてしまったことも何度かありますが、なんとか200記事目までこぎつけることができました。まずは、私のブログをご訪問いただいている皆様に深謝いたします。これからもよろしくお願いいたします。ついでに統計ですが、レポート数(ユニークアクセス)は累計でもう少しで20000アクセス、平均で一記事あたり約100アクセスです。最近のページビューは月あたり1000~1500となっています。メインのブログに比べると10分の1ですが、少々マニアックなブログにしては多くのみなさんにご訪問いただいており、うれしいかぎりです。

さて、200記事の区切りに何の記事をアップするか大いに迷ったのですが、やはりジャズにすることにしました。今日は奇跡のピアニストと称されるミシェル・ペトルチアーニのアルバム、「Pianism」をご紹介しましょう。ちょっと長いですがおつきあいください。最後まで読まれるとなぜこのアルバムを選んだのか、お分かりいただけると思います。

ミシェル・ペトルチアーニ(Michel Petrucciani)は、フランス出身のジャズ・ピアニストです。フランスでも最高のジャズ・ピアニストと評価されていました。36歳で急逝しましが、ショパンの墓のすぐ近くに埋葬されるほどに、人々から愛されていました。幼少の頃からクラシックピアノを学んでいましたが、彼の心にはデューク・エリントンのピアノ演奏が深く刻み込まれており、ジャズを志すようになりました。13歳で最初のコンサート、15歳でプロデビュー、18歳の時に初めてトリオを組みレコーディングをしました。さらに1982年(20歳)にはペトルチアーニはアメリカへ渡ります。アメリカではウェイン・ショーター、ディジー・ガレスピーなど様々なジャズミュージシャンと共演、フランス人としては初めて名門ジャズレーベルのブルーノート・レコードと契約にいたりました。彼はフランスの誇りでもあり、1994年にはレジョン・ドヌール勲章を受章、2002年6月にはパリ18区の広場が「ミシェル・ペトルチアーニ広場」と命名されました。

彼の演奏はビル・エヴァンスらの影響を受けてはいますが、そのスタイルは独自性が強く、リリカルでありながらエネルギッシュなプレイは人の心を強く揺さぶります。その音はしんの強いものでありながら、繊細なやさしさも内包しています。まずは彼のピアノを聴いてみてください。このアルバムには入っていないMy Romanceという曲で、短いクリップですが素晴らしいです。

YouTubeの映像です。



さあ、みなさんどうでしたでしょうか。多くの方が彼の演奏を初めて聴いた時、涙するといいます。僕もそのうちの一人、完全に彼の虜になりました。

ここまで、彼のもうひとつの特徴である先天性疾患のことはあえて書きませんでした。まずは彼の「音」を聴いて欲しかったからです。彼は骨形成不全症という先天性疾患を背負っていました。生まれつき骨が構造的に弱いため、身長は1mほどにしかのびず、骨の変形からくる感染症をはじめとした合併症により寿命が限られていました。彼の場合は20歳まで生きられればいいと言われていたようです。彼の骨は非常にもろかったので、演奏席まで他人に運んでもらわねばならなかったそうです。幸い腕は標準的なサイズであったので、鍵盤を弾くことはできました。とはいえ、体のハンディキャップは大きく、どうしてあのような素晴らしい演奏ができるのか、信じられないほどです。

繰り返しになりますが、彼は20歳までしか生きられないであろうと言われていました。でも音楽が彼の命を支えていたのでしょうか。実際には予想よりはるかに長く生きながらえることができました。しかしながら、人が人であるかぎり避けられない運命というものがあります。ツアー中にニューヨークで急性肺炎を起こし急逝しました。36歳の誕生日から10日足らずのことでした。

彼の音楽を聴くとどうして涙がでてくるんでしょうか。自らの不幸な運命を嘆き、自殺未遂を繰り返した時期もあったようですが、そんな彼の人生が悲惨だったからからでしょうか。いや、そうではありません。彼が先天性疾患を患った代わりに天から比類なき音楽の才能をもらったという事実があるからでしょうか。いえいえ、そんな陳腐なメロドラマでもありません。彼の音にはそんなことを微塵にも感じさせない生命の力があふれています。病気であることは、彼の多くある特徴・個性のひとつにすぎません。彼は短い人生ながらも人生を肯定的に受け入れ、自分の天賦の才を努力によって最大限に発揮させたのです。だからこそ、その音楽を聴く人が彼のエネルギーを感じとり、心を震わせるのです。

さて、アルバム「Pianism」の紹介です。1985年の作品であり、ブルーノート・レーベルでの初めてのリリースです。彼のアルバムのなかでは比較的地味ですが、僕はいちばん好きです。まず一曲目、Prayerが静かに始まります。最初の一音から、すっと心の中に入って彼の世界に包まれてしまいます。ピアノソロからドラムとベースが入ってインテンポに変わるところは、わずかに力強くなりますがまだ静かなまま、それなのにぐっときます。しばらくすると彼のピアノだけが素晴らしいのではないとわかってきます。ベースとドラムの絡み方が絶妙で彼のピアノをさらに高めているのです。静かに始まるアルバムとういのはあなどれません。そういえば、エバンスのワルツ・フォー・デビー、You must believe in springもそうですね。次のOur Tuneはご機嫌なサンバナンバー、バンドのメンバーの楽しそうな顔が目に浮かぶようです。テクニックは素晴らしく、彼に障害があること忘れてしまいます。まさにかっこいいという言葉がふさわしい4ビートナンバーのFace's Face、僕の好きなNight and Dayと続きます。Night and Dayのベースとドラムの入り方も最高。楽器が加わるのに、「静かに」 インしてきます。それに合わせるようにこれもまたすっと自然にタッチを抑え気味にするペトルチアーニも素晴らしいです。そう、呼吸と間と音の空間を読み取る力、バンドにもっとも大切なことでしょうね。そのあと、しっかりと刻まれたリズムの上で、自由奔放に指と手をすべらせ、腕を羽ばたかせるペトルチアーニ。9分半の時間があっという間に過ぎていきます。Here's that rainy dayは最初にほんの少しだけエバンスの影が横切りましたが、その後はまさにペトルチアーニ。彼独自の叙情がしっとりと音の中に内包されています。途中の息をのむような早弾きのところも、しっかりとしたテクニックのためか安心して身を任せられます。そして最後の曲のReginaがまたいい。渋いベースラインでかっこよく始まったと思うと、その後はまさにバンドが一体となって、緩急、強弱を自在に操ります。ふぅ~よかったあ・・・また聴こっと(笑)。

今日はミシェル・ペトルチアーニとの出会いを感謝して、記事を終わりたいと思います。ぜひとも彼のピアノを聴いてみてください。音楽の意味、いや人が生きるということの意味をふと考えたくなります。でもしばらくすると、音にすっかりと身を委ねてしまって何も考えなくなるんですよね(笑)。

さて、ほんとに長くなってしまいました。200記事目はいかがでしたでしょうか。これからもSlightly out of Tuneをよろしくお願いいたします。

もうひとつアップしておきましょう。Jim Hallとの共演で、Beautiful Loveです。


by shigepianoman2 | 2009-06-05 17:19 | Jazz