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Shige's Photo Diaryに登場する曲を中心に音楽についての四方山話を綴ります


by shigepianoman2

The Melody At Night, With You

最近やっぱりピアノがいいなあと再認識しています。秋だからかもしれませんね(笑)。そんなわけでジャズピアノ、しかもピアノの美しさが際立つアルバムを続けましょう。


The Melody At Night, With You
Keith Jarrett / ECM



ぜひとも皆さんに聴いてもらいたいアルバムのベスト10を挙げるとするならば?悩んでしまいますがEvansの「Waltz For Debby」とともに、必ず入るであろうアルバムがあります。それはKeith Jarrettの「The Melody at Night, with You」です。

このアルバムとの出会いはいつだったか・・・そうそう、いろいろと悩んで落ち込んでいる時でした。いつものバーにひとりでふらっと行って、いつもの酒を飲んでいると、マスターが一言。「たまにはキースでも聴いてみませんか?」。

バーテンダーというのはよきカウンセラーでもあります。特に、このバーのマスターは細かい気遣いが自然にできる方で・・・またその話はいつかゆっくり記事にしましょう。おやっ、キース?僕の好みを知っているマスターがどうしてキースをかけるんだろう。最初は戸惑いましたが、音楽が鳴り出すと・・・カウンターでただ音楽に聴き入っている自分がいました。

最初の「I Love You, Porgy」から心に奥深く染み入ってきて、4曲目の「Someone to Watch over Me」あたりから心が震え始め、5曲目の「My Wild Irish Rose」では自然に涙が。もう自分の悩みも忘れて、キースのピアノの音に抱擁されていました。いったいどうしたんだろう?キースに何があったんだろう?

このアルバムはKeith Jarrettの1998年の作品です。彼は慢性疲労症候群という難病を患って、一時活動を休止していました。慢性疲労症候群は、まだ認知度は低いですが、回復しない激しい疲労、倦怠感により時には社会生活や日常生活までも障害されてしまうやっかいな疾患です。そして復活、その最初のアルバムがこの作品でした。

自宅で録音されたピアノソロはスタンダードからトラディッショナルまで10曲。どの曲も、その美しさを純粋に表現するように丁寧に演奏されています。この曲はこんなに美しい曲だったんだ・・・そんなふうに感じる瞬間が何度もやってきます。決してテクニックに走らず、奇抜なアレンジもなく、淡々と誠実に演奏される音楽に心の曇りが晴れていきます。

ただの「癒し」などという言葉では語ることはできません。このアルバムとの出会いは「音楽とは何か?」という本質的な問いに少しだけ答えを与えてくれたと思っています。

少し心が疲れた時、ぜひ聴いてみてください。

そうそう、大事なことを・・・タイトルのYou、これはずっと彼を看病し復活に大きな力となった妻のこと。このアルバムは彼の妻に対する感謝のこもったプライペートアルバムの側面も持っているのです・・・いかん、また泣けてきた・・・
by shigepianoman2 | 2006-10-20 22:51 | Jazz